さくらだより




<第26回> 杢目金屋収蔵木目金作品紹介

  2020年1月27日

現代の暮らしにおいては、床の間に季節ごとにしつらえをすることも少なくなり、床の間そのものが無い家も多くなりましたが、お正月に鏡餅をお供えする風習はまだまだ根付いているのではないでしょうか。年神様にお供えをし、神様のパワーが宿るとされる餅を食することで、新たな一年の幸福を願います。古来より日本では福を呼ぶと考えられているモチーフを持ち物や着る物の装飾に、いわゆる「宝づくし」文様として取り入れたり、その物を家の中に飾ることで幸運が舞い込むことを願いました。今回ご紹介する木目金で制作された「打ち出の小槌」もその幸運のモチーフの一つです。
 

 
「打ち出の小槌」は大黒様の持ち物としてよく知られています。大黒様は七福神の一つであり、人々に富をもたらす神様です。右手に打ち出の小槌を持ち、左手に持つ大きな袋には宝や福が詰まっているとされます。小槌を一振りする度に小判が降り注ぐと言われ、財宝、富の象徴となっています。
 この小槌は木製であらわされることが多いのですが、今回ご紹介する小槌は木目金で作られ、金銀色の象嵌が施された大変豪華なものです。大小どちらの小槌も持ち手の部分は、銅、赤銅、四分一(銅と銀の合金)の3色が重なる縞模様の木目金により作られています。槌の本体の木目金は、同じ積層にさらに大胆に彫りを加え、複雑で豪壮な雰囲気を漂わせた模様になっています。大きい方の小槌には夫婦円満を象徴する夫婦鶴と長寿のシンボルである亀がはめ込み象嵌(ぞうがん)されています。この小槌の大きさは全長が22センチ、本体の横幅が9.5センチです。わずか数センチの鶴や亀は繊細な細工により小さいながらリアルな存在感を醸し出しています。大胆な模様の木目金の地と組み合わさることで、豪華さが際立つ装飾となっています。また、大小どちらの小槌にも大黒様の使いと言われる愛らしい金銀色の「鼠(ねずみ)」もあしらわれ、幸運をもたらす「打ち出の小槌」であることを象徴しています。まさに「おめでたづくし」の鑑賞者の目を大いに楽しませる作品です。
 

 
両作品とも、明治時代に作られたものです。廃刀令により刀の鐔を作る技術から、矢立や煙管など生活用品を作るために用いられるようになった木目金。近代においてはその装飾性の高さから、以前ご紹介したロンドンのビクトリア&アルバート美術館所蔵の花瓶に代表されるような観賞用の美術品の制作にも用いられるようになりました。作品の土台となる下地に用いることで、そこに施された他の装飾を引き立てると同時に、全体の調和をもたらし、装飾性を高める効果を発揮しています。
 

 
現代では、どんなに複雑な色、模様、デザインであっても、金属だけでなく様々な素材に印刷加工することが可能です。そのような技術が無かった時代において、有機的で変化に富んだ模様の素材を作ることを可能にした木目金技術の誕生は、画期的なことだったと言えるのではないでしょうか。